まだ家の売却は考えていないけれど、今のうちにしておくこと

資産価値を維持するカギ!「定期的な住宅診断」と「予防的メンテナンス」の意識

1. 「築年数で価値ゼロ」の常識を覆す、メンテナンスの力

第1回では、家を「資産」として捉え直し、売却時の評価を大きく左右するのは、内装の綺麗さよりも「構造の健全性」であることをお話ししました。
しかし、どれだけ構造が重要だと分かっていても、「日本の家は古くなると価値がなくなる」という固定観念はなかなか払拭できないかもしれません。

この常識を覆す鍵こそが、「定期的な住宅診断(ホームインスペクション)」と、それに基づく「予防的メンテナンス」です。

築年数が評価基準の全てであった時代は終わりつつあります。
現在の中古住宅市場で、買い手が最も求めているのは「安心感」です。

  • リフォームで一時的に綺麗にした家
  • 見た目には古いが、プロによって定期的に構造のチェックがされ、劣化が未然に防がれてきた家

この二者を比較した場合、買い手は間違いなく後者に高い価値を見出します。
なぜなら、大規模な構造の修繕費用は、内装のリフォーム費用を遥かに上回るからです。

予防的に管理された家は、将来にわたる「不必要な出費のリスクが低い」ことを証明できるためその安心感こそが、売却価格に上乗せされる付加価値となるのです。

2. 「事後対応」では手遅れ!劣化から家を守る「予防・未病」の考え方

多くの方が家に対するメンテナンスで陥りがちなのが、「事後対応型」です。

「雨漏りしてから屋根を直す」「外壁の塗膜が剥がれてから塗り替える」「給湯器が完全に壊れてから交換する」といった、問題が顕在化してから初めて対処するスタイルです。
この事後対応型の問題点は、単に費用が高くつくというだけでなく、家全体の健康寿命を損なってしまうことにあります。

ここで、メンテナンスの二つのタイプを比べてみましょう。

タイプA:事後対応型(問題が起こってから直す)

  • 特徴: 問題が起こってから直す。原因の根本解決ではなく、対症療法になりがちです。
  • 資産価値への影響: 劣化が構造体にまで及んでいる可能性が高く、資産価値を大きく下げる要因となります。修繕費用が高額になるリスクがあります。

タイプB:予防・未病型(問題が起こる前に手を打つ)

  • 特徴: 住宅診断で初期のサインを見つけ、問題が起こる前に手を打ちます。軽微な劣化のうちに修繕します。
  • 資産価値への影響: 構造の健全性が維持され、将来の重大な欠陥リスクを抑えられるため、売却時の評価が高くなります。費用対効果が高い方法です。

家にとって最も怖いのは、主要な躯体が水やシロアリによって傷つくことです。これらは、目に見えない部分で静かに進行し、気づいた時にはすでに構造材の耐久性が失われ、高額な修繕が必要になっています。

事後対応では、家の資産価値の根幹である「構造の健全性」を維持することは困難なのです。
「予防・未病」の意識とは、人間でいう「定期的な健康診断と、軽いうちに治す早期治療」に他なりません。
この意識を持つことこそが家を長持ちさせ、かつ、売却時に評価されるための最も重要な心の準備となります。

3. 「定期的な住宅診断」がもたらす経済的なメリット

住宅診断を定期的に行うことは一見すると診断費用という「出費」ですが、長い目で見れば、その費用を遥かに上回る経済的なメリットをもたらします。

3-1. 修繕費用の大幅な抑制

最も大きなメリットは、将来の修繕費用を抑制できることです。

例えば、外壁のコーキングに小さなひび割れが見つかったとします。

  • 診断で見つけ、早期に部分補修した場合: 数万円の費用で済みます。
  • 放置し、ひび割れから水が浸入し、内部の木材が腐食した場合: 外壁の一部撤去、構造材の補修、再防水、再仕上げなどで数百万円の費用がかかることがあります。

定期的な診断は、この「数万円の予防的投資」を促し、「数百万円の緊急的な出費」を回避します。
診断費用を出し惜しむことは、将来の巨大な修繕リスクを抱え込むことと同義なのです。

3-2. 売却時の「減額査定」を防ぐ

売却時に、買い手が自ら行う住宅診断や、不動産会社による査定で重大な欠陥(雨漏り、シロアリ被害、構造体の腐食など)が見つかると、売却価格からその修繕費用が差し引かれてしまいます。
これが「減額査定」です。

しかし、あなたが既に定期的な診断を行い、重大な劣化がないことを証明できれば、買い手は安心して購入を決断できます。むしろ、「定期的に管理されてきた優良な中古住宅」として、周辺相場よりも高い価格で売却できる可能性が高まるのです。

3-3. 住宅設備の長寿命化

主要な躯体だけでなく、給排水管や換気扇などの設備も定期的なチェックが必要です。
診断では、こうした設備の寿命を予測し、まだ使えるうちに交換計画を立てるアドバイスも得られます。計画的な交換は、突然の故障による生活への支障を防ぐだけでなく、修理よりも効率的な費用で済むことが多く、設備全体を長持ちさせることにもつながります。

4. 住宅診断はどこを見る?プロの目が捉える「構造の真実」

一般の方が普段目にしない、またはチェックが困難な主要な躯体を、専門家はどのように診断するのでしょうか。

彼らは、単に目視で確認するだけでなく、特殊な機材を用いて、家の健康状態をデータとして把握します。

専門家による診断でチェックされる主要な躯体と内容

  • 屋根裏・小屋裏の診断:
    • 断熱材の湿り具合、構造材(梁や桁)の腐食、雨水の浸入痕、配線の状態などを確認します。
    • 特に、プロは懐中電灯だけではなく、湿気を計測する機械などを使って、目視できない部分の異常を探ります。

  • 外壁の診断:
    • 塗膜の劣化具合、コーキングのひび割れや硬化、タイルやサイディングの浮きなどを詳細にチェックします。
    • サーモグラフィーや打診棒を使って、内部の剥離や水分の滞留箇所を特定することもあります。

  • 基礎・床下の診断:
    • 基礎のひび割れの状況、床下の湿気の状態、給排水管からの水漏れの有無、そして最も重要なシロアリの被害の有無と、その発生しやすい環境がないかを確認します。
    • 床下に潜り、高湿度な場所や、木材の含水率が高い場所を集中的に調べます。

  • ベランダ・バルコニーの診断:
    • 床面の防水層のひび割れ、FRPやウレタン防水の剥がれ、排水口の詰まりや勾配の状態をチェックし、水が内部に浸入するリスクがないかを確認します。

これらの詳細なチェックを通じて、「今はまだ問題がない」のか、「放置すれば数年以内に問題になる軽微な劣化(未病)」があるのか、「すぐに修繕が必要な重大な劣化」があるのかを、客観的なデータに基づいて判断するのです。

5. 「まだ売らない人」のための、診断活用の賢いスケジュール

「定期的な住宅診断」と言っても、毎年行う必要はありません。家の構造や使われている材料によって理想的な頻度は異なりますが、一般的には以下のような節目に、計画的にプロの診断を入れることが推奨されます。

  • 築10年〜15年頃(予防メンテナンスの検討期):
    • 新築時の保証が切れる頃です。外壁や屋根の防水機能が低下し始めるタイミングであり、この時期に一度プロの診断を受け、「予防・未病」のメンテナンス計画を立てるのが最適です。
    • この時期の適切な対応が、次の15年の家の健康を左右します。

  • 築20年〜25年頃(大規模修繕の検討期):
    • 主要な防水層や設備に寿命がくる頃です。大規模な修繕(屋根や外壁の再塗装・交換)の計画を立てる前に診断を入れることで、「必要な工事だけ」を「最適なタイミング」で行うことができ、無駄な出費を防げます。

  • 築30年以降(長期的な維持管理計画の見直し期):
    • 売却が視野に入ってくる場合もあります。構造の健全性を再度確認し、将来の売却時に備えた修繕を最小限に抑えるための長期的な維持管理計画を確定させます。

「まだ売却を考えていない今」こそ、こうした専門家の診断を、「売却時の不安を解消するための保険」として活用し、計画的に家の資産価値を守っていく意識を持つことが大切です。

次回の第3回コラムでは、これらの定期的な診断と予防的メンテナンスを行った「努力の証」を、どのように記録し、将来の売却時の価値に繋げるのか、「履歴管理」の具体的な仕組みづくりについて詳しく解説します。

続く第3回では、管理の「事実」を売却時に最も信頼される「付加価値」に変える方法

第2回では、定期的な診断と予防的なメンテナンスが、将来の出費と売却時の減額をどう防ぐのかを経済的な視点から解説しました。

続く第3回では、これらの管理の「事実」を、売却時に最も信頼される「付加価値」に変える方法に焦点を当てます。
知識がない方でも手間なく行える「履歴管理」の重要性と、その具体的な仕組みづくりについて、詳しくお伝えします。

第3回は下記をクリックしてください。
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